診療科目・予防・健康診断

腫瘍科

癌の克服だけでなく生活の質の向上を。その子にとってベストな治療をご家族と一緒に考え、選びます

ヒトと同じように、犬や猫にも腫瘍ができます。近年の獣医療の発展に伴い、犬猫の寿命も延びたことで、約3頭に1頭に腫瘍が発生すると言われています。

常に体の中では“腫瘍細胞”が一定の割合で発生しています。その腫瘍細胞は、正常な免疫細胞によって除去され続けていますが、何らかの原因で免疫細胞の監視を逃れた腫瘍細胞が増殖してしまい形成されるものが腫瘍です。腫瘍は大きく良性腫瘍と悪性腫瘍に分かれます。一般的には、転移をしない腫瘍のことを良性腫瘍、転移をする腫瘍のことを悪性腫瘍(がん・肉腫)と呼びます。


主な腫瘍の診断・治療方法


【腫瘍の見つけ方】
腫瘍には見つけやすい腫瘍と見つけにくい腫瘍があります。見つけやすい腫瘍とは、皮膚(体の表面)や口の中などにできる、見える・触れる腫瘍です。日頃よくスキンシップをとれていると、小さい段階で見つけることができる場合が多いと思います。

なかなか早期に見つけにくい腫瘍は体の中にできる、見えない・触れない腫瘍です。しかし、これも犬猫の体調をよく観察していることで、早期に気づいてあげられることがあります。


【腫瘍を見つけたら】
デキモノ(しこり・腫瘍)を見つけた場合、様子を見ずに、なるべく早くご相談ください。良性・悪性腫瘍ともになるべく小さい状態で発見し、適切に診断・治療することが重要です。診察では、まずはデキモノの発生部位や形状、浸潤(ひろがり)、リンパ節の腫れの有無をしっかりと確認します。次に注射針を使用して細胞を採取して観察する『細胞診検査』を行います。

細胞診検査にて、デキモノが炎症病変なのか、腫瘍病変なのか判別し、次に必要な検査、手術の必要性の有無、手術方法など、今後の治療方針を決定します。細胞診検査で判断がつかない場合は、組織検査(部分切除)を行う場合もあります。


【腫瘍の分類】
細胞診検査や組織検査で腫瘍が特定できたら、原発腫瘍の大きさや広がり、リンパ節転移の有無、遠隔転移の有無などをチェックし、腫瘍の進行度合い(病期、ステージ)を決定します。

その結果から、その後の治療と予後を見極めます。画像検査(レントゲン検査・エコー検査)や血液検査(生化学検査、血球検査、内分泌検査など)を行い、麻酔/手術前検査にて全身状態を見極め、手術を計画・実施します。


【腫瘍の治療法】
腫瘍治療の目標は、腫瘍を治す(根治治療)、腫瘍の進行を抑える、腫瘍による症状を和らげる(緩和治療)です。腫瘍治療の3本柱は、外科手術、化学療法(抗がん剤・分子標的薬治療)、放射線治療です。どの治療法が適切で最善かは、腫瘍の種類や発生部位、犬猫の健康状態、病気のステージなどにより、適応が異なります。

当院では各種治療の効果やリスク、予後(余命)など、様々なことをしっかりと説明します。治療に際し、飼い主様のご家族や病気に対する思いや考えも様々だと思います。犬猫への治療の負担、治療費問題や通院時間の制約なども話合い、飼い主様と犬猫にとって最良の治療をご一緒に考えましょう。

主な腫瘍疾患


【脂肪腫】
脂肪腫は脂肪組織をかたちづくる脂肪細胞の良性腫瘍です。中高齢の犬で多くみられ、メスでの発生率がオスの2倍程度というパターンを示します。あらゆる犬種に発生しますが、国内での飼育頭数の多いラブラドール・レトリーバーで若干多くみられる傾向があります。脂肪細胞を原因とする腫瘍は大部分を占める良性の脂肪腫の他に、周囲に腫瘍が浸潤しながら増殖する浸潤性脂肪腫、頻度は低いものの悪性度の高い脂肪肉腫などが存在します。


【肥満細胞腫】
肥満細胞はアレルギーや炎症などに関与している細胞で、体の中のいろいろなところにあります。肥満細胞が腫瘍(がん)になってしまったものが肥満細胞腫です。皮膚に発生することが多く、悪性の皮膚がんの中では最も多く発生します。

皮膚にできる肥満細胞腫はイボのようなものだったり、脂肪の塊のようだったり、皮膚炎のように赤くなったりと様々な形状をしています。見た目から判断することは困難で、大きくなったり小さくなったりすることも多く、小さくなったからといって安心はできません。

肥満細胞腫は肥満細胞が本来持っているヒスタミンやへパリンなどの物質を多量に放出してしまうことがあります。そうすると、皮膚が赤くなったり、胃腸に負担がかかって吐き気や下痢がでたり、血が止まりづらいといった症状を起こすことがあります。悪性度が高いものは転移を起こすことがあります。転移はリンパ節、肝臓、脾臓、骨髄などに起こりやすいです。


【扁平上皮癌】
猫に多く発生する上皮の悪性腫瘍に扁平上皮癌があります。扁平上皮癌は、鼻の頭や耳の先端にかさぶたを作って進行するために、ケガや皮膚炎と間違われやすいという問題があります。また、白い猫などの皮膚の色素の薄い部位に日向ぼっこで日焼けが進むと発生することがあります。

扁平上皮癌は、進行が早く周囲の組織への浸潤性が強いため、早期の摘出が望ましい腫瘍です。肥満細胞腫は時に痒みを伴うため、虫刺されと間違われやすい腫瘍です。猫の肥満細胞腫は、犬と異なり悪性度が高くないことが多いのですが、進行すると全身に影響が出てくるため早期の治療が必要です。


【犬の乳腺腫瘍】
お腹を触っていて、皮膚の下にしこりがあることに気づき、来院される例が多い腫瘍です。犬の乳腺に発生する腫瘍は、一般的に良性と悪性の比率が1:1だと言われています。犬の乳腺は4対あるいは5対あり、前足の付け根から後ろ足の付け根まで広範囲に存在します。片方あるいは両方の乳腺に同時にしこりを見つけることも多くあり、良性腫瘍と悪性腫瘍が混在することもあります。

乳腺腫瘍の治療の第一は、乳腺片側全摘手術ですが、摘出した腫瘤については大きさに関わらず、全て病理組織学的検査を行う必要があります。また、人の乳がんと同様に、犬の乳腺腫瘍も女性ホルモンの影響を受ける腫瘍です。初回発情前に卵巣子宮摘出術を実施すると、乳腺腫瘍の発生率が顕著に下がることが知られております。

乳腺腫瘍を予防するには、初回発情前、あるいは少なくとも1回目の発情後に卵巣子宮摘出術を実施することが推奨されています。


【猫の乳腺腫瘍】
猫の乳腺腫瘍は、人や犬とは異なり悪性度が極めて高く、9割以上が乳腺癌(悪性腫瘍)です。しこりの大きさが2 cmを超えると、予後が悪くなることが明らかになっており、早期診断が極めて重要となります。しかし、しこり以外に症状がないため発見が遅れる場合も多く、診断時には既に肺への転移を認める例も少なくありません。

家庭で乳腺を触ってしこりを早期に発見することが、治療の成功への第一歩です。治療は、外科的な摘出が主であり、肺転移を認める例には抗がん剤治療を行うこともあります。


【犬のリンパ腫】
犬のリンパ腫の発生率は、1万頭に1頭と言われており、血液・リンパ系のがんの中では最も多いタイプのものです。顎の下、肩、膝の後ろにあるリンパ節が腫れることで気づくこともありますが、何となく元気がない、食欲がない、吐く・下痢をするといった症状で気づくこともあります。

診断は、腫れているリンパ節の細胞診、組織診断、時に遺伝子検査を用いて行います。リンパ腫の中には悪性度の高いものと低いものがあり、その発生率は悪性のものが9割とされています。

高悪性度リンパ腫は、主に抗がん剤により治療します。複数の薬剤を組み合わせて、1〜2週に一回の間隔で治療を行なっていきます。がん細胞が見た目上消失した状態(寛解)を目指し、抗がん剤治療を半年程度継続したのちも寛解が得られている場合、休薬して経過観察とします。寛解期間が半年から1年程度続くことが多いのですが、ほとんどの例で再発してしまいます。

一方、低悪性度リンパ腫は、診断後も病気の進行がゆっくりであるため、抗がん剤を使わずに経過観察する例も多くあります。

リンパ腫は治療により、一旦は病気になる前の状態に近い状態まで回復することが可能な病気であり、治療の効果を感じやすい病気の一つですので、ご家族と一緒に治療に取り組んでいきたいと考えております。


【猫のリンパ腫】
猫のリンパ腫は、リンパ節だけではなくさまざまな部位に発生します。犬と異なり、体表リンパ節が腫れるタイプは多くありません。腸、腎臓、皮膚、鼻腔、脳といったリンパ節以外の臓器で発生し、さまざまな症状を起こします。下痢、嘔吐、食欲不振、くしゃみ、鼻出血などの症状に対して一般的な治療を行ってもなかなか改善が認められない時に、リンパ腫の存在を疑って、画像検査と組織検査(細胞診、組織生検)を行い、診断・治療を進めます。

治療は、抗がん剤による化学療法が主になりますが、腫瘍のできた場所によっては手術によって摘出する場合もあります。


【血管肉腫】
血管肉腫とは血管内皮の細胞が癌化した腫瘍で、さまざまな臓器に発生し、転移も多いタイプの腫瘍です。脾臓や肝臓といった腹腔内臓器に発生した場合は、気づきにくく、腫瘍が破裂し、大出血を起こしてぐったりした状態で初めて気づくというケースも少なくありません。

治療は、外科的な切除と術後の抗がん剤治療となります。しかし、腹腔内出血を起こしたことのある脾臓の血管肉腫の症例の治療成績は、手術のみで約3ヶ月、抗がん剤治療を併用して約6ヶ月と、長期の延命は難しいのが現状です。


【膀胱腫瘍】
膀胱腫瘍は腎泌尿器の腫瘍では最も多い腫瘍であり、膀胱に発生すると頻尿やしぶり、血尿などの下部泌尿器症状が認められます。移行上皮癌が最も一般的な膀胱腫瘍であり、転移や播種を引き起こす浸潤性の強い腫瘍であると言われています。進行すると尿管や尿道の閉塞が生じ排尿困難を生じることもあり、緊急的な手術の実施が必要な場合があります。

尿の細胞診、組織診断などで診断を行います。尿路の腫瘍は膀胱や尿道内で広がりやすく、手術による腫瘍の摘出だけでは根治することが難しいことから、抗がん剤による治療を併用することが多い腫瘍です。


【尿道腫瘍】
尿道腫瘍は尿道から発生する腫瘍であり、膀胱と同様に移行上皮癌が最も一般的です。尿道から膀胱にも浸潤することが一般的ですが、尿道に限局して発生することもあります。

尿道は大部分が骨盤内に存在しているため、X線検査や腹部超音波検査での評価が困難なことも多く、症状も頻尿や残尿感など膀胱炎と同様な症状を示すため見逃される場合もあります。そのため、造影X検査や膀胱鏡検査が必要となる場合もあります。

進行してくると排尿困難を生じ、尿道カテーテルも挿入困難となることから、緊急的に尿路確保のために手術を実施する必要もあります。血尿や頻尿などの症状を示している場合は、膀胱だけでなく尿道の精査も重要となります。


【肝臓腫瘍】
肝臓腫瘍は肝臓に発生する腫瘍であり、肝臓全体に広がっているようなものもあれば、一部に限局して大きな塊を作るようなものもあります。

良性腫瘍、悪性腫瘍ともにありますが、肝臓全体に広がっているような腫瘍のほとんどが悪性腫瘍であり、治療は困難なことが多いです。肝臓一部に限局して塊を作るような腫瘍であれば、悪性腫瘍でも外科手術により余命を伸ばすことが可能であると言われていますが、大きくなってから発見された場合は、外科手術による出血のリスクが非常に高くなります。

外科手術では、肝臓内の隠れた太い血管を損傷させないことが重要で、医療機器を用いて慎重に血管を見つけながら手術を進めていきます。